熊日新聞 きょうの発言vol.1

 今年も少しずつ終わりに近づいてまいりました。
早いものですね。
さて、今年の1月から3月にかけて、熊本日日新聞の夕刊「きょうの発言」というコーナーに、学芸員山下弘子が記事を連載させてもらう機会がありました。
その時の記事を、少しずつここでご紹介しようと思います。
以下、その記事の転載です。ご高覧いただければ幸いです。
出発点は「ゾクッ」 (熊本日日新聞夕刊「きょうの発言」2010年1月5日付)
 坂本善三美術館では、毎年小中学生を対象にした鑑賞教室を行なっています。私は子どもたちの新鮮な感想を聞けるのを楽しみにしています。
 ある中学生が善三先生の晩年の抽象作品を見たときの感想文をご紹介します。
 「真っ黒にぬってあるだけに見えるけど、よく見るといろいろな形に見えてきたりもするし、心の底から『ゾクッ』という感じがしたように思えました」
 子どものころ、化石を観察しているときにふと意識が古代へと繋がるような気持ちになったり、夜何気なく星を眺めているうちに宇宙の壮大さに気がついたりして、足元が揺らぐような感じに襲われたことはありませんか。絵を見ていても同じような気持ちになることがあります。じっくりと絵と向き合い、何かの拍子にその絵と波長が合うと、未知の茫漠たる世界をのぞいてしまった恐ろしさと、でもそこに思い切って踏み込んでみたい好奇心とが交差します。そのときの脳ミソが粟立つ感じ。これを書いた中学生は、その心の震えを体験したに違いありません。
 心の底からゾクッとする気持ち。科学者も芸術家も中学生も、出発点はきっと同じです。私たち大人が美術を前にして子どもたちにできることは、教えることではなく、その感性を引き出すこと、それをつぶさないように伸ばすこと、それだけだなといつも思います。
(坂本善三美術館 学芸員 山下弘子)

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