『坂本善三とヨーロッパの版画展』が始まりました。

坂本善三とヨーロッパの版画展
坂本善三は、1976年に初めて手がけたリトグラフィ(石版画)によって、ヨーロッパにその名を知らしめました。今回の展示では、それら坂本善三のリトグラフィと、同時代のヨーロッパの画家たちの多様な版画作品をとおして、版画の魅力と表現の豊かさをご覧いただきたいと思います。
版画と一口に言っても、その種類は多種多様で、私たちに馴染み深い木版画や、よく耳にする銅版画・石版画、そのほか、画家が自分の表現のために開発した独自の版画技法まで様々にあります。
今回展示している作品の中にも、とても珍しい版画があります。ブラン・ボガルトのアクワグラヴュールは、立体の版にパルプを圧縮して制作するもので、レリーフのような半立体の作品です。油彩画のような絵肌、他に類を見ない圧倒的な造形、色彩の鮮やかさは、私たちに新鮮な驚きと爽快さを味合わせてくれるでしょう。
また、ハンス・アルトゥングの重厚な黒のリトグラフィは、西洋の理知と厳格さを備えています。坂本善三の作品にも黒を使った作品が多くありますが、坂本善三が「西洋の黒には質量を、東洋の黒には精神を感じる」と語っていたことを体現しているかのように、二人の作品の黒から受ける印象は異なります。それでいてどこか深いところで通じる精神性を持っており、二人の作品を見比べていると、坂本善三の作品がヨーロッパで高い評価を受けた理由の一端を垣間見ることができるように思います。
また、ヨーロッパには版画の工房も多く、職人と作家が共同して作品を作り上げます。本展に出品されている坂本善三の「構成80」や坂本寧のアクアチントは、フランスの版画工房で制作されたもので、東洋の精神をヨーロッパの技術が表現した作品といえます。
坂本善三とヨーロッパの画家たちの作品が織り成す空間に、ゆっくりと身をゆだねていただければ幸いです。
展示風景
展示風景(アルトゥング)
展示風景

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