制作道場30日め、前向きな後ろ向き

制作道場30日め、9月1日。
とうとう最終日です。
この日は「前向きな後ろ向き」。
走ります。
**********
すみません、最後のこの日は、めいっぱい書きました。
長い長い記事になっています。
いつも、要約を書いているのですが、この日のことはあまり削りたくなく…
かなり書き込みました。
長いですけど…よかったら、読んでください。
**********
朝、後ろの顔を描いています。描き手は、4日前東京から駆けつけてくれたお友達の、庄司さん。
後ろに写った時計が「7時42分」と表示されています。
 
美術館事務所にて、ストレッチ。

最後、劇的な幕切れにふさわしく、大雨です。
下の写真右側に見える砂利の上を、前の顔が前向きに走り、“後ろの顔が前向きに”走り…。つまり、体の向きは変えず、前に進み、そのまま後ろに下がり、また前へ…と、行ったり来たりのマラソンをするのです。
後ろ頭の顔が雨や汗で消えた時だけ、顔を描くため足を止めます。顔は、居合わせたお客さんや、お友達やスタッフが描きます。
今日は、そういう“作品”です。

上の写真で奥に見えているのが、「エイド」です。
ここに座って、顔を描きます。
顔を描いている間だけ、お茶を飲んだり、食べ物を食べたりできます。

そして走りながら、テント下のホワイトボードに貼った紙に、一往復するたびチェックをつけていきます。
この直線が20メートルです。チェックした数で、後で走行距離がわかります。

エイドの中でくるみちゃんのスタートを見つめるのは、前日東京から無事小国に到着したお友達の画家のお二人。麻生知子さんと武内明子さん。+Kちゃん。
スタート前のストレッチです。
9時にスタートします。
閉館の5時まで、走りっぱなしの予定です。

位置について。
よーい、
「カチン」。
スタートの号砲は、おもちゃのピストルです。

最後の一日、スタート!!
朝からの雨が、だんだん激しくなっていきます。

前の顔が、前へ。

後ろの顔が、前へ。

「はいっ!」と、声を出してバトンを持ち替え、また前へ。


ボードにチェック!

上の写真、テントの屋根にビニール袋みたいなのがついているのがわかりますか。雨が激しく、2つつなげたテントの境目からジャブジャブ雨が落ちてきて、テント間の移動がままならなかったので、“雨どい”をつけました。

ラップを二つに折って、テープ留めしてます。
傾斜をつけて、両脇に流してます。
自画自賛するけど、ナイス!!
…そんな必要にかられるほど、ひどい雨でした。
写真では雨粒はあまり確認できませんが、結構な降りです。
エイドに座っていると、冷たい湿り気が体を冷やしてきます。

がんばれ~!
この時のエイドは、まだガランとしてました。
事務所キッチンでは、庄司さんがくるみちゃんのために赤ジソを煮てしそジュースを作ってくれています。

その間も、くるみちゃんは走ってます。

雨で、後ろ頭の顔がどんどん流れていきます。

雨の中を、行きつ戻りつ。

エイドのボードにチェックしながら。

後ろの顔が前向きに。

前の顔が前向きに。

後ろ向きに。

「くるみちゃーん、そろそろ、顔を描きまーす!」
「はーい!」
くるみちゃん本人は、後ろの顔は見えないので、まわりからの声かけでエイドに入ります。
武内さんが、顔を描きました。

武内さんの顔を後ろに背負って、走ります。

この時は、まだゼッケンがついていません。
この後、くるみちゃんが「わたし、ゼッケンつけて走りたいです!A4の紙か何かで、作ってもらえませんか!?」と言い、「いやいや、紙じゃすぐ破れるだろう」ということで、急遽シーツを切って、ゼッケンを作ったのです。

ゼッケン装着!
一枚一枚、枠も画家仲間による手描き。枠の中に、顔を描いた人が自分の名前を書き入れて、くるみちゃんの背中にピン留めします。
このときの顔は、当館の学芸員・山下が描いた顔。だから、ゼッケンも「山下」。ゼッケンは顔が変わるたびに付け替えます。

くるみちゃんが走ってる横で、画家仲間のみなさんが、くるみちゃんのゴールに備えて演出の小道具を制作してくれています。
画用紙をつなげて、ゴールテープにする作戦。
これまでの制作道場の様子を、絵にしてくれています。

エイドに食料も入りました。
「小国のおいしいものを、くるみちゃんにいっぱい食べさせてあげよう」と、お友達やスタッフからのエイドカンパを資金に、買いまわってきました。
小国のジャージー牛乳の、飲むヨーグルト。
小国の直売所でピカピカに光っていた、トマト。きゅうり。
手作りのおだんご、まんじゅう。
パティスリールイのロールケーキ、くるみガレット。

美術館のキッチンで作った、しそジュース。
にぎやかしの、カップ麺や駄菓子。

ランナーの友・アクエリアス。
塩分補給に干し梅。
ストレス社会で闘うあなたに…のチョコ。

そして、数日前から何度も買いに行っては売り切れだった、こんにゃく寿司!!
(この日は、もう買いのがせないと電話して取りおきしてもらいました)

この食糧を、顔を描きかえるわずかな時間で口に運びます。

雨は、まだまだ降り続いています。

消えては描き…

また消えては描き…

走って走って…

また、描き…

体から発散される水蒸気と、頭部から垂れてくる雨と汗とで、描いたはしから顔が流れていきます。

どんどん流れて、どんどん描きます。

走って走って、

また描きます。

くるみちゃんは、必ず「顔、顔見せてください」と、描かれた顔をデジカメで撮影した画面で確認して、「ありがとうございます、じゃあ、○○(描いてくれた人の名前)、行きまーす!」と、描かれた顔と一緒に走っていました。

新しい顔を描いてもらって飛び出して行く時は、休憩できたからとか何か口に入れたからとかではなく、それ以上に、エネルギーをもらったような、ちょっと生まれ変わったかのような気合いの入りようでした。

この頃は雨も激しく、描いた顔も5分と持たないような流れっぷりでした。

描いても描いても消えてゆきます。
でも、おかげでいろんなお客様に「ぜひ、描いてください」と声をかけることができました。

舌がチロリ。


雨の激しさが、少し写ってますね。


大雨洪水警報発令中。

水はけのいい美術館の庭も、ぬかるんでいます。

前の顔と後ろの顔のスイッチに、バトンを持ち代えることも忘れません。

流れては描き、流れては描き。


空も暗くなってきました。

足元には、溝が掘れてきました。

走るたびにつけるチェック。
頻繁に道場に通ってくるみちゃんの日々を見守ってくださったお客様が、最後のこの日にも来てくださいました。そして、くるみちゃんにプレゼントも。くまモンのキーホルダーです。

ありがとうございます。

1時です。いま4時間。あと4時間。ちょうど折り返しです。

後ろに走りながら、右足はもう足首が動いてない感じでした。


1時10分。豪雨です。




地元の小学生もやってきてくれました。


すでに5時間以上走っています。
フルマラソンなら、ゴールする頃です。


もうすぐ3時。

少し、雨が弱まってきました。

くるみちゃんのお知り合いが北九州からお仲間をたくさん連れて、やってきてくださいました。



くるみちゃんの出身・北海道から、同級生も来てくれました。


ロールケーキの丸かじりは、美術館スタッフからのリクエストに応えてくれたもの。

ゴールまでまだ時間があり、疲れもかなりたまっていた頃、多くのお客様や仲間がくるみちゃんを囲んで応援してくれました。

がんばれ~!

3時45分!
あと1時間と少し!!


この頃にはもうすっかり、ボード前に溝ができていました。
通るたびに水しぶきです。
近くでカメラを構えていると、期待に応えるかのように、カメラに向かって思いっきり水をはねあげてくれました。遠慮なんかなし。くるみちゃんらしい…と思いました。


まもなく4時10分!

すると、幕切れ直前のこのタイミングで、“建てない建築家”の坂口恭平さんがご来館!

数日前、坂口さんのお知り合いの方が美術館に来てくださって、「これは、きっと恭平が好きだ」と連絡を取ってくださったのです。くるみちゃん、有名人を前にちょっとテンションがあがってます。

ドロドロの顔。

ゼッケンをつけて…

「はいっ!坂口、行ってまいります!!」
後ろ向きに飛び出していきました。


その頃屋内では、ゴールテープの制作が進んでいました。
寄せ書きも、書き込まれていました。

これまでの日々がつながった、ゴールテープ。

人魚。NHKニュースに出演。人を食ったような口、百人一種。

他力本願寺。千足観音。確認印。絵クササイズ。

30日間おつかれさまのメッセージ。

石膏像。ブリッジ拓。タコ。

くルンバ。虎の威を借るジャージーバター。母の絶筆。父の背中。

かかし。名画。ゴールできない。
だんだん、日が差してきました。

最後、ゴールする顔を描くのは、この30日間、一緒に伴走してきた、当館学芸員・山下。

描いた顔は…
「若木くるみ展 若木くるみの制作道場」ポスター、チラシにもなった、一番最初に描いた顔です。

最後は、「山下」ゼッケンはもちろん、この日顔を描いてくれたみんなのゼッケンを背中にずっしりつけて走ります。雨と汗で濡れて、かなりの重量です。

最後の最後まで、走る!

もう、足がもつれます。

ゴールテープがコース横に登場。

「がんばって~」
「あと少し!!」

あと8分!

ゴールまで、あと少し!
このとき、くるみちゃんの頭の中では最後をどう締めようかとぐるぐる考えていたらしく…。
それまで“ピン”とクレヨンでチェックだけつけていたボードの紙に、
「あ」
の字が書かれました。

ボード近くで写真や動画を撮っていたスタッフから、
「えっ!」
「まさか…」
「やめて~~!」の声。
泣かせに入っている!
そして、一往復しては
「り」
また一往復しては
「が」

もうだめです。スタッフの涙腺決壊。
「ありがとう 善」と書かれました。
「あと1分ですーー!!」

最後の走り

最後の一往復。

ゴール!!

でもこれは後ろの顔のゴール!

そして、今度は前の顔で、思いきり駆け込んでのゴール!

あと3歩!!


駆け抜けました~!
ハアアーーーー

みんな隠し持っていたクラッカーを鳴らしてくれました。

ゆっくり立ち上がって、

「ありがとうございました!!」

後ろの顔も、
「ありがとうございましたーー!!」

くるみちゃんに、金メダルもありました。
制作:お友達画家軍団。
(スタッフにもこっそり作っててくれました。ありがとう!!)

道場の伴走者・学芸員山下に駆け寄るくるみちゃん。


くるみちゃん、お疲れさまでした!
応援してくださったみなさん、ありがとうございました。

後で数えたら、くるみちゃんは美術館の前庭を830往復していました。
走行距離は33、2キロ。
豪雨の中、じゃくじゃく走りにくい上に溝までできた砂利道を、半分は後ろ向きで、よく走りました。
ほんとうに、お疲れさまでした。
「若木くるみの制作道場 制作反省日記」ブログ(くるみちゃん目線)
http://sakamotozenzo-events.hatenablog.com/
若木くるみの制作道場ツイッター
https://twitter.com/zenzo_sakamoto

美術館の更新情報を受け取る