12日め「駆け込ん寺」
8月10日、12日めは「駆け込ん寺」です。
実はこの日は、前々から、学芸員山下が不在になる、ということがわかっていました。そこで、“ゲスト赤ペン”ということで、一日だけくるみちゃんとタッグを組んで頂く方をお招きしました。
福岡県立美術館の学芸員竹口さんです。
竹口さんは、昨年のくるみちゃんの制作道場最終日にもお越し下さり、その後も何かとくるみちゃんネタには敏感に反応して下さっていて、くるみちゃんに関しては、すっかり“味方”のような、親近感を感じていた方です。だから、楽しみにしていました。
くるみちゃんも、「竹口さんが来てくれるなら、何か、竹口さんならではの作品にしたい!」と、ずっと何をするかと悩んでいました。私たちスタッフも、ああでもないこうでもないと、くるみちゃんと一緒になって悶々としていました。
「竹口さんご本人と話をしないことには、わからないね」と必ずそこに着地してしまう議論を、何度重ねたことでしょう。
前の日の夕方、竹口さんが小国に到着した時も、まだ何も決まっていませんでした。
某所で会食しながらも、和やかな中でも企画話がみんなの頭を離れません。雑談まじりの企画会議でした。
その場でやっと、くるみちゃんの口から出たアイデア「かけこみ寺」。夜中まで合宿形式で話し合って、細部まで詰めて、なんとか、寝ることができました。枕に頭をのせたのは、2時半でした。
くるみちゃんが竹口さんに一日中、次々と今後の作品プランを相談する、というものです。その名も“かけこみ寺”。当日、作品タイトルは「駆け込ん寺」となりました。“かけこんでら”。平仮名で書くと、かけこんでるね、という意味合いにもなります。
竹口師匠が寺看板を書いて下さいました。
「よろしくお願いします!」
「ではすみません、竹口さん、なにとぞよろしくお願いします」
当館学芸員山下。留守をするギリギリまで見守って、出発しました。
さあ、では、始めます!
まずは、作品のアイデアを企画書に書き込みます。
「できた!」
部屋を飛び出して、必要もないのに美術館の庭を一周走って勢いをつけて、
ガラッ!
「師匠!」
「できました!」
「おう、できたか。カケコンデ~~ラッ」
カケコンデ~~ラッ。巻き舌で、テンション高めで、なんだかイタリア語か何かみたいに聞こえました。その後も、くるみちゃんが駆け込んでくるたびに、「カケコンデ~~ラッ」と、やって下さいました。
竹口さん、実はこの「駆け込ん寺」企画案に、最後まで心配が抜け切れなかった様子でした。竹口さんも、作品の一部というか、重要な登場人物になってしまうだけに、当然不安も心配も大きかったことと思います。
そんな中、「カケコンデ~~ラッ!」とくるみちゃんを鼓舞するように、くるみちゃんのテンションを引き上げるように、自分の身を投げ出して一緒に作品になりきって下さっている姿に、プロフェッショナルを感じました。
「これは、具体的にはどういうこと?」
「それは、光が差し込むイメージなので…」
企画を話し合ってる間、演技も何もなし。お客さんがいても、いなくても、議論に没頭します。
でも、だんだん引き込まれるお客さま。
くるみちゃんと師匠のホットライン、糸電話を、「糸電話、やったことない」という中学生を誘って、くるみちゃんが一緒にトークしました。
「どうして、今日、この美術館に来たんですか?」
「夏休みの宿題で、美術館に行ってレポートを書かないといけなくて…」
お客様とのコミュニケーションもはさみつつ、でもジャンジャン企画を持って駆け込みます。
一つの企画を何度も練り直しては駆け込み、練り直しては駆け込み。
「よくなったな。これなら、いいんじゃないか」
「できたあ~」
「よしっ」
「やったーっ!」
「ありがとうございます!」
花マル、貼り出します!
オランダからのお客様が「駆け込ん寺」に迷い込んだり、
企画の実演をお客様に一緒に見守って頂いたり。
お昼ごはんの時間も惜しんで、そそくさと食べて、ひとつでも多くの企画案を見てもらおうと、貪欲に食らいついてました。
そして、とうとう
一緒に企画を考えて、一緒に駆け込んで下さるお客様が!
「この係数は…」
「色を使うなら白地の方がいいけれど…」
「…おもしろい!」
「…ありがとうございました…」
「いやあ~、すごいおもろいアイデアですわ~。これは、絶対実現させたいなあ」
お連れの女性のアイデアも、またすごいユニークな発想で、感激のくるみちゃん、「帰らないで、しばらくいて企画を出してほしい!」とすがりつきたい気持ちを抑えてのお見送りです。
別のお客様は、二人の真剣なやり取りをしばらく見守って、帰る間際にこんな感想を聞かせてくれました。
「美術館って、いつも完成形の作品を見せてもらってたけど、そこに至る前の段階では、こんな話し合いとか制作過程があるんですねえ~。完成前のものを見せてもらって、なんか生々しくって、これもまたよかった~」
もう、閉館まで残り15分です。
下駄履きの足裏が真っ黒なくるみちゃん。雨でぬかるんだ庭を、何度も何度も走って駆け込んできました。
「まだ終わりたくない!もっと相談したい!」と、終了間近になっても、集中が途切れません。竹口さんも。
そして、いよいよ終了。
「ハア~~~」
「おもろかったな。最初はホント、どうなるかと思ってたけどな」
「よかったです~。今日、この企画でできて、ほんっっっっとに!よかった!!」
「ありがとうございました!!」
「あ、そういえば、これ」
「割るんちゃう?」
「そうでした。じゃあ、こっちから助走して…はあああーーーっ!」
「はっ!!」
「割れへんなあ~」
「もう一度!はあああーーー!」
「!!」
※ちょっと細工はありましたが、割れました
「ありがとうございました!!!」